3月21日

岸政彦『断片的なものの社会学』を読んだ。冒頭の1ページからすごく引き込まれる話が載っていて、これは絶対面白いと感じて読み進めた。社会学者である著者が多くの人に聞き取り調査などをするなかで、結果的に学術的に意味のあるものではなかったけど、何か強く惹き付けるところのあるエピソードの数々が無数に記されている。この本にはそうした小さな欠片のような話の数々から派生して、著者の思考が様々な方向へと張り巡らされている。いくつもの断片から、話は“普通”に生きるということ、“幸せ”になるということ、他者と寄り添うということ、マイノリティーの人との接し方など多岐に及ぶ。『断片的なものの社会学』ではそれらの問題に対して何か明確な答えや解釈が書かれているわけではない。むしろ「どうしたらいいかわからない」といった著者の戸惑いが多々見られた。でも「どうしたらいいかわからない」こそ、僕たちはたくさん思い悩む必要があると思う。

生きているといろんな問題があって、それはときには複雑な要因が絡んでいたりもして、そして様々な性格の人がいる。だから「こういう問題のときはこうする」「ああいう人にはああやって対処する」とかって簡単に決められるものではない。そうした画一的な思考や行動はなんだか生きづらい世の中を作っていくと思う。「どうしたらいいかわからない」ものに出会うたびに「どうしたらいいかわからない」と思い悩むこと。それは世の中にはびこり、人々を不自由にする見えないルールや暗黙の了解を打ち破っていくことに似ている気がする。「どうしたらいいかわからない」と考え続けることは、ある意味で多様性を認めることに繋がっていくような気がした。