黒い時計の旅

黒い時計の旅 (白水uブックス)

黒い時計の旅 (白水uブックス)

 

スティーヴ・エリクソン「黒い時計の旅」読み終えた。その面白さに感動。度肝を抜かれた。物語の軸となるのは、ヒトラーの私設ポルノグラファーを務めるアメリカ人、バニング・ジェーンライト。彼には、彼の頭のなかには、実際に顔を合わせずとも、犯すことすらできる一人の女がいた。彼女はウィーンにいる。

青年になったバニングは小説家に。暴力とエロティシズムが入り混じった彼の物語はひそかに評判を集め、ある頃からある依頼主Zのためだけに、彼はポルノ小説を書くようになる。少年時代に起こした事件から、私立探偵に追われることとなったバニングはやがてアメリカを離れ、一路ウィーンへ。時代はオーストリアナチスドイツに併合される直前だ。その地で彼は依頼人のためだけに、女を凌辱し続け、それを物語に起こすのだが、その依頼人が実はヒトラーで…。

ハードボイルドな要素もはらみつつ、時代や空間も軽々と飛び越えるストーリーはかなり荒唐無稽だ。それが短文でスピード感を持って語られるため、ドライブする小説とはこのことか! とつくづく思わされることとなる。現実の20世紀に幻視的な要素が入り混じる。そんな壮大な物語がこの「黒い時計の旅」だ。ぶっちゃけ筋はこんなもんじゃない。というか読み終えたいまとなっては、説明するのは少し野暮な気すらする。すごい小説だった。

読後はもっとこんな小説を読んでみたいという気持ちに駆られる。どうやらエリクソンはラテン・アメリカ文学からの影響を受けているそう。それならばと「ラテンアメリカ十大小説」「ラテンアメリカ文学入門」2冊の新書を手に取った。マジック・リアリズムって言葉とか、バルガス=リョサボルヘス、ガルシア=マルケスとか、名前は知ってるけど読んだことない小説家たち。それらを前にして、いまなんだかテンションがあがっている。日本の作家でもこういう小説を書いていないかしらと、適当なワードでググる古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」がヒット。

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

 

 あ。と思い、積読本のなかからベルカを引っ張りだし、読み終えたのが今日のこと。この本からは「黒い時計の旅」からの多大なる影響が伺えた。あと巻末のあらすじで本人も触れていたけど「百年の孤独」とかも。読んだことないけど。ほかに日本だと阿部和重シンセミア」も文体、物語的に近いところがあると感じた。

肝心の「ベルカ、吠えないのか?」はこれはかなり面白いぞ、と鼻息荒目で読み進めたのだけど、後半からただ歴史をなぞるだけの説明に比重が傾き始めて、そこからかなり読む気が減退してしまった。とはいえトータルではかなり面白かったので、彼のほかの本も必ずや読んでみようと思った次第。というかなんで今まで読んでなかったんだ。ということで最近は読書ブーム到来中。